
在庫管理の属人化とは、在庫の場所や数量、発注方法などが、特定の担当者にしか分からない状態です。
「在庫のことは、あの人に聞かないと分からない」
「担当者が休むと、誰も棚を触れない」
「発注する量は、いつも担当者の経験で決めている」
このような状態になっていないでしょうか。
経験のある担当者が在庫管理を担うこと自体は、悪いことではありません。
問題は、その人が持っている情報や判断の基準が、ほかの人に共有されていないことです。
担当者が不在になったときに業務が止まる。間違いが起きても原因を確認できない。引き継ぎをしようとしても、何を伝えればよいのか分からない。
在庫管理の属人化は、少しずつ会社の守備力を弱くしていきます。
目次
在庫管理の属人化が起こす問題
在庫管理が一人の経験や記憶に頼っている会社では、次のような問題が起こりやすくなります。
- 担当者が不在になると、在庫確認や発注ができない
- 商品の保管場所を、ほかの人が把握していない
- 発注数量の根拠が分からない
- 在庫表と実在庫が違っていても、原因を追えない
- 返品、廃棄、社内使用などの記録が残らない
- 長期間動いていない在庫に気づくのが遅れる
- 担当者の負担が増え、休みにくくなる
- 退職や異動の際に、十分な引き継ぎができない
日常業務が問題なく回っている間は、属人化に気づきにくいものです。
担当者が経験豊富で、仕事も早ければ、むしろ「任せておけば安心」と感じます。
しかし、その安心が一人の記憶や勘だけに支えられている場合、担当者が動けなくなった瞬間に、会社全体の問題になります。
経験のある担当者が悪いわけではない
属人化という言葉を使うと、担当者のやり方に問題があるように聞こえるかもしれません。
しかし、属人化は一人の担当者だけがつくるものではありません。
会社が長い間、その人に任せ続けた結果でもあります。
「自分がやった方が早い」
「説明する時間がない」
「ほかの人に任せると間違いが心配」
こうした積み重ねによって、担当者の中に知識と判断が集まっていきます。
担当者も、自分だけが分かる状態を望んでいるとは限りません。
聞かれるたびに説明し、問題が起きるたびに対応し、休みの日にも連絡が来る。属人化は、担当者本人にも大きな負担をかけます。
必要なのは、その人の経験を否定することではありません。
経験の中にある判断の基準を、ほかの人にも分かる形に変えることです。
在庫は担当者ではなく、会社が守る資産
在庫は、倉庫や売場にある商品の集まりではありません。
会社がお金を使って仕入れた資産です。
在庫数が分からなければ、必要以上に仕入れる可能性があります。必要な商品が足りなければ、注文を断ったり、納期の約束を守れなかったりします。
在庫の状態は、仕入れ、販売、顧客対応、資金繰りにも影響します。
だからこそ、在庫は担当者一人に任せるのではなく、会社として把握する必要があります。
在庫管理を信頼の問題として捉える考え方は、在庫管理は「信頼管理」。棚の乱れが会社の信頼を崩すで詳しく紹介しています。
在庫管理の属人化をなくす第一歩は、仕事の見える化
在庫管理の属人化をなくすために、最初から詳しいマニュアルを作る必要はありません。
まず、担当者が普段行っている仕事を書き出します。
| 確認する仕事 | 整理する内容 |
|---|---|
| 入荷 | いつ、何を確認し、どこに記録するか |
| 出荷 | 誰が、どの時点で数量を減らすか |
| 保管 | 商品をどの場所に置くか |
| 発注 | 何を見て、どれだけ注文するか |
| 返品・廃棄 | 誰が承認し、どこに記録するか |
| 棚卸し | いつ、誰が、どの範囲を数えるか |
| 差異確認 | 数が合わないとき、何を確認するか |
ここで大切なのは、理想的な手順を書くことではありません。
現在、実際にどのように仕事が行われているのかを確認することです。
担当者に「どうしているのか」を説明してもらうと、記録されていない判断が見えてきます。
「この商品は週末に動くから、木曜日に発注する」
「この仕入先は納品に時間がかかるので、少し早めに頼む」
「箱が似ているので、保管場所を離している」
こうした経験は、マニュアルには書かれていなくても、在庫管理を支えている大切な情報です。
在庫表を、担当者だけの表にしない
在庫表があっても、担当者しか見られなかったり、内容を理解できなかったりすれば、属人化は残ります。
在庫表は、少なくとも次の点を確認できるようにします。
- 商品名と品番
- 保管場所
- 入荷数と出荷数
- 現在あるはずの数量
- 実際に確認した数量
- 差異があった場合の理由
- 最終入出庫日
- 発注済みの数量
複数の人が見られる場所に保存し、担当者が不在でも在庫状況を確認できるようにします。
紙やExcelでも構いません。
ただし、最新版がどれか分からなくならないよう、保存場所と更新する人を決めておく必要があります。
在庫表を記録だけで終わらせず、照合や判断に使う方法は、在庫表の使い方|「あるだけ」では意味がない、本当の役割で整理しています。
すべての仕事を、全員ができる必要はない
属人化をなくすというと、全員が同じ仕事をできる状態にしなければならないように思えるかもしれません。
しかし、専門的な判断まで全員に求める必要はありません。
まずは、担当者以外にも次のことが分かる状態を目指します。
- 商品がどこにあるか
- 在庫表はどこにあるか
- 入出庫をどのように記録するか
- 発注済みの商品は何か
- 数量が合わないとき、誰に報告するか
- 担当者が不在のとき、最低限何をすればよいか
日常の細かな判断は担当者が行い、基本的な情報と緊急時の対応は共有する。
この分け方なら、担当者の専門性を生かしながら、会社としての安全性も高められます。
小さな確認を二人で行う
在庫管理を共有する第一歩として、月に一度でも、担当者と別の人が一緒に棚を見る方法があります。
在庫表を見ながら、次のことを確認します。
- 表に書かれた商品が実際にあるか
- 保管場所は分かりやすいか
- 長く動いていない商品はないか
- 数量の違いが出ていないか
- 次の発注が必要な商品はあるか
二人で見ることで、担当者にとって当たり前だったことを言葉にする機会が生まれます。
別の人から質問されることで、記録方法や保管場所の分かりにくさにも気づけます。
実際の支援現場でも、在庫管理をする人員の配置や業務の流れを確認し、担当者の経験を聞きながら仕組みを整えることが、改善の出発点になります。食品製造業の家族経営を再生|在庫管理で利益改善した支援事例でも、その進め方を紹介しています。
まとめ|在庫管理の属人化を、会社の知恵に変える
在庫管理の属人化は、経験のある担当者がいるから起きるのではありません。
その人が持っている知識、判断、記録方法が、会社の中で共有されていないために起こります。
必要なのは、担当者の仕事を奪うことではありません。
担当者の経験を言葉にし、在庫表や業務の流れとして残し、ほかの人も最低限確認できるようにすることです。
まずは担当者と一緒に棚を見て、
普段、何を見て判断しているのか
を確認してみてください。
その会話が、一人に集まっていた経験を、会社の知恵に変える第一歩になります。
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次回は、忙しい会社でも続けやすい「5分の棚チェック」について取り上げます。
※本記事は、マイベストプロ神奈川で2025年11月4日に掲載し、在庫管理コラムとして多く読まれた記事を、同媒体での掲載終了に伴い株式会社平岡商店の自社サイトへ転載したものです。自社サイトへの掲載にあたり、担当者の経験を共有する方法、引き継ぎの考え方、関連記事への案内を加筆・修正しています。


