居酒屋倒産が過去最多に。値上げだけでは足りない理由

2026年上半期の居酒屋倒産は118件となり、上半期として初めて100件を超えました。

東京商工リサーチの調査では、原因の多くを販売不振が占め、倒産した企業のほとんどが従業員10人未満の小規模事業者でした。

食材や酒類、人件費、家賃が上がる一方で、値上げをすれば客離れが心配になる。価格を据え置けば、売っても利益が残りにくい。

小規模な居酒屋ほど、難しい判断を迫られています。

ただし、経営が苦しくなる理由は、原価率の上昇だけではありません。

月末のまとめ仕入れ、安い商品を探して行う現金仕入れ、月次棚卸の不足、そして借入金の元金返済。

これらが重なると、損益計算書上の利益よりも先に、手元の現金が減っていくことがあります。

安く仕入れても、資金繰りが楽になるとは限らない

仕入価格が上がれば、同じ商品を同じ量だけ仕入れても支払額は増えます。

少しでも原価を抑えるため、業務用スーパーや現金問屋などへ買いに行く店もあるでしょう。

商品単価だけを見れば、従来の仕入先より安いことがあります。

一方で、これまで月末締め、翌月払いだった掛け仕入れが、その場での現金払いやカード払いに変わります。

月末や連休前には、仕入業者の休みを見越して、数日分をまとめて購入することもあります。

仕入価格の上昇が手元資金に及ぼす影響

【仕入価格が上がる】
          ↓
【安い仕入先を探す】
          ↓
【掛け仕入れから現金仕入れへ変わる】
          ↓
【月末・連休前にまとめて購入する】
          ↓
【在庫が増え、支払いが早くなる】
          ↓
【利益以上に手元資金が減る】

現金仕入れそのものが悪いわけではありません。

問題は、仕入単価だけで判断し、支払時期、購入量、在庫、廃棄、買いに行く時間などを見落とすことです。

少し安く買えても、支払いが早まり、必要以上に在庫を持てば、短期的な資金繰りは厳しくなります。

仕入先を比較するときは、価格だけでなく、支払条件まで含めた「総調達コスト」で考える必要があります。

月末に残った商品は、その月の原価ではない

月末や連休前に多めに仕入れた商品を、その月のうちにすべて使うわけではありません。

翌月に使う酒や食材は、月末在庫として翌月へ繰り越します。

ところが、小規模な居酒屋で、毎月すべての商品を正確に数え、仕入単価を当てて棚卸を行うのは簡単ではありません。

棚卸をせず、仕入れた金額をそのまま原価にすると、まとめて仕入れた月は原価率が高く見えます。

翌月は、前月に買った商品を使うため、反対に原価率が低く見えます。

これでは、本当に仕入価格が上がったのか、仕入時期がずれただけなのか判断できません。

すべての商品を細かく数える必要はありません。

少なくとも、次のような金額の大きい商品を確認するだけでも、月次の原価率は実態に近づきます。

  • 未開封の酒類
  • ケースで購入した飲料
  • 冷凍品
  • 高単価な食材
  • 米や油など、まとまった金額になる商品

公的な業界平均は、自店の数字を見るための参考にはなります。

しかし、平均原価率と自店の原価率が違うからといって、すぐに経営が悪いとは限りません。メニュー構成、客単価、仕入方法、月末在庫などが違えば、原価率も変わります。

まずは、毎月の仕入高と月末在庫を確認し、自店の数字として捉えることが必要です。

在庫と資金繰りの関係については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

在庫が増えると会社はなぜ苦しくなるのか―資金繰り・利益・経営判断の3つの視点から解説

黒字でも現金が残らない理由

もう一つ見落としやすいのが、借入金の元金返済です。

支払利息は損益計算書の経費になりますが、借入金の元金返済は経費にはなりません。

そのため、帳簿上は黒字でも、返済後に現金が残らないことがあります。

例えば、25日営業の店で、家賃が売上の3日分、借入返済が2日分だとします。

大づかみに言えば、月の最初の5営業日は、家賃と借入返済のために売っていることになります。

そこへ月末のまとめ仕入れや現金仕入れが加わります。

試算表の営業利益だけを見ても、こうした資金負担は分かりません。

少なくとも、次の順番で確認する必要があります。

売上から経費を引いた利益
          ↓
減価償却費を戻した営業上の資金
          ↓
在庫の増減を反映
          ↓
借入金の元金を返済
          ↓
実際に残る現金

利益が出ているかだけでなく、返済後に現金が残っているかを見ることが重要です。

利益と現金がずれる仕組みや、在庫・売掛金・借入返済が資金繰りに与える影響については、こちらの記事で整理しています。

利益が出ているのにお金がない3つの理由―黒字倒産を防ぐキャッシュフローの基本

返済まで考えると、いくら売る必要があるのか

ここからは、考え方を分かりやすくするため、架空の小規模居酒屋を想定したモデルで考えます。

想定する店舗

  • 月商:260万円
  • 営業日数:25日
  • 1日当たり売上:約10万円
  • 仕入原価率:約4割
  • 家賃:月商の約3日分
  • 借入返済:月商の約2日分
  • 小規模な従業員体制
  • 厨房設備や内装の減価償却あり

これは、公的な経営指標を参考にしながら、説明のために置いた想定値です。

すべての居酒屋に当てはまる平均値や、必要売上の正解ではありません。

実際の必要売上は、席数、営業時間、家賃、人員、借入残高、メニュー構成などによって大きく変わります。

このモデルで、人件費、家賃、水道光熱費、決済手数料、消耗品費、減価償却費などを積み上げます。

さらに、損益計算書には費用として出ない借入金の元金返済まで含めると、手元資金を減らさずに営業するためには、月商290万円台が必要という試算になりました。

現在の月商260万円からは、約13%の売上増加です。

ここで大切なのは、「居酒屋は月商290万円以上必要」ということではありません。

自店の現在の費用と返済額から、自店に必要な売上を計算し直すことです。

昨年と同じ売上を達成していても、原価や人件費が上がれば、以前と同じ現金は残りません。

「売上を13%増やす」を三つに分ける

売上を13%増やすと聞くと、かなり難しく感じます。

すべてを値上げで達成するなら、商品価格を大幅に上げる必要があります。

すべてを集客で達成するなら、来店客数を大きく増やさなければなりません。

どちらか一つに頼るのではなく、商品単価、注文数、来店客数に分けて考えます。

想定モデルの売上増加を三つに分ける

改善する項目改善の目安現場でのイメージ
商品単価約5%主力商品を30円から50円見直す
1人当たり注文数約3%7人に1人から、もう1品注文をいただく
来店客数約4%1日1人から2人増やす
組み合わせた効果約13%月商260万円から290万円台へ

※この数字は、前述の想定店舗を使った試算です。三つの改善効果は掛け合わされるため、単純合計とは多少異なります。

「売上を30万円以上増やす」と考えるだけでは、何から手を付ければよいか分かりません。

しかし、

  • 1品当たり30円から50円
  • 7人に1人からもう1品
  • 1日1人から2人

に分ければ、具体的な行動として考えやすくなります。

全商品を一律に値上げする必要はない

商品単価を見直すといっても、全商品を同じ割合で値上げする必要はありません。

優先して見直すのは、次のような商品です。

  • 仕入価格の上昇が大きい商品
  • よく売れている商品
  • 調理に手間がかかる商品
  • 売っても粗利益額が小さい商品
  • 廃棄が発生しやすい商品

一方で、お客様に店のお得感を伝える商品や、最初に注文されやすい商品は、価格を維持する方法もあります。

原価率だけでなく、1品を売ったときにいくら残るかで判断します。

注文数を増やすために、無理な追加注文を勧める必要もありません。

最初の飲み物と一緒に小皿を案内する。2杯目の注文時に料理を勧める。締めの商品を分かりやすく見せる。

こうした小さな改善を積み重ねます。

来店客数についても、混雑している日にさらに集客するのではなく、空席のある曜日や時間帯を埋める方が、人件費を増やさずに売上を伸ばしやすくなります。

必要な売上を、現場で動かせる数字に変える

居酒屋の倒産が増えている背景には、売上減少や原価上昇だけでなく、在庫、支払い、返済がそれぞれ異なる時期に動くという問題があります。

利益が出ていても、在庫が増え、現金仕入れが増え、借入返済が続けば、手元資金は減ります。

反対に、月末棚卸をしていなければ、実態以上に原価率が高く見えることもあります。

必要なのは、単に「もっと売る」「値上げする」と考えることではありません。

現在の費用と返済額から必要な売上を求め、それを商品単価、注文数、来店客数という現場で動かせる数字に分けることです。

大きな目標を、小さな数字に分ける。

そこから、次の一手が見えてきます。

自店に必要な売上や、借入返済後に現金が残る水準は、家賃、人件費、原価、借入額、営業時間などによって異なります。

月次試算表の利益と実際の現金の動きが合わない場合は、売上、仕入、在庫、返済の流れを一度整理することが必要です。

平岡商店では、小規模事業者の現場に合わせて、在庫管理、資金繰り、月次管理の仕組みづくりを支援しています。

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【参考資料】
東京商工リサーチ「2026年上半期『居酒屋』倒産が過去最多、初の100件超」

日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」