
2026年6月16日に開催されたfreee統合ワールド2026に参加し、AIによる経理効率化、バックオフィス改革、中小企業の管理会計、持たない経営に関する複数のセミナーを聴講しました。
全体を通じて感じたのは、AIの進化によって、経理や会計の仕事が単に「楽になる」だけではなく、経営そのものの見方が変わり始めているということです。
これまで小さな会社では、経理、販売、在庫、勤怠、請求、支払いなどが、それぞれ別々に管理されていることが少なくありませんでした。
会計ソフトには会計の数字がある。
販売管理には売上や受注の情報がある。
現場には作業量や在庫、納期の感覚がある。
社長の頭の中には、資金繰りや借入返済の不安がある。
どれも経営に必要な情報ですが、十分につながっていない。
今回のセミナーでは、この分断をAIやクラウドによってどう変えていくかが、大きな論点になっていました。
目次
経理AIは「相談相手」から「実務を進める存在」へ|中小企業への影響
AIの使われ方は、ここ数年で大きく変わってきました。
以前は、質問に答える、文章を作る、資料を要約する、といった使い方が中心でした。
しかし、今後はそれだけではありません。
経費精算の確認、仕訳チェック、請求や支払いの照合、販売データと会計データの突合、資金繰り見込みの作成など、実務そのものをAIが進めていく方向に変わりつつあります。
つまり、AIは「聞けば答えてくれるもの」から、「業務を一緒に進めるもの」へ移っているということです。
この変化は、小さな会社にも関係があります。
月次試算表が出るのを翌月まで待つのではなく、より早い段階で経営状況を見る。
売上、在庫、資金繰り、会計の情報をつなげて確認する。
部門別、拠点別、商品別、活動別など、自社に合った切り口で数字を見る。
こうしたリアルタイム経営が、以前よりも現実的になってきています。
「持たない経営」と小さな会社
もう一つの大きなテーマが、「持たない経営」です。
人手不足が続く中で、すべての機能を社内だけで抱えることは難しくなっています。
人材、システム、専門知識、管理機能をすべて自前で持つのではなく、外部人材、クラウドサービス、AIを組み合わせながら、必要な機能を柔軟に使っていく。
そのような経営の考え方です。
ただし、持たない経営は、単に外注を増やすことではありません。
外部に任せるほど、管理が見えにくくなる。
業務のムラが出やすくなる。
責任の所在があいまいになる。
コンプライアンスや確認体制が重要になる。
外部との連携に、かえって工数がかかる。
このような課題も出てきます。
だからこそ、AIや外部人材を活用する前に、自社の業務の流れを整理しておくことが大切になります。
何を社内で持つのか。
何を外部に任せるのか。
どこをAIに任せるのか。
どこは人が判断するのか。
この整理がないまま便利なツールだけを入れても、経営判断にはつながりにくいでしょう。
数字をオープンにしても、現場が動くとは限らない
今回、特に印象に残ったのが、管理会計に関するセミナーでした。
テーマは、経営陣の言葉と現場の言葉が、なぜかみ合わないのか。
これは、小さな会社でもよく起きる問題です。
経営者は、利益、資金繰り、借入返済、投資回収を見ています。
現場は、客数、単価、在庫、作業時間、シフト、ミス、納期を見ています。
経理は、仕訳、勘定科目、請求、支払い、残高を見ています。
同じ会社の数字を扱っていても、立場によって見ているものが違います。
そのため、試算表をそのまま見せても、現場にとっては分かりにくいことがあります。
売上高、売上原価、販売管理費、営業利益と並んでいても、それが日々の行動にどう関係するのかが見えない。
数字をオープンにするだけでは、現場は動きません。
必要なのは、会計の数字を、現場が動ける単位に翻訳することです。
売上を、客数と単価に分ける。
人件費を、人数、シフト、稼働時間とつなげる。
在庫を、仕入、販売、保管、資金繰りとつなげる。
利益を、具体的な改善行動とつなげる。
管理会計は、単なる集計ではありません。
経営者、経理、現場が同じ方向を向くための翻訳作業でもあります。
AI時代に専門家の役割はどう変わるのか
AIが進むと、入力や集計、確認といった作業は自動化されていきます。
では、専門家の役割は小さくなるのでしょうか。
むしろ、変わっていくのだと思います。
これから求められるのは、単に一つの専門知識を持っている人だけではありません。
業務の流れが分かる人。
現場と会計のつながりが分かる人。
数字を経営者や現場の言葉に翻訳できる人。
会社ごとの事情に合わせて、正解ではなく納得できる選択肢を示せる人。
つまり、「あなたの会社の専門家」です。
一般論としての正解を示すだけではなく、その会社の業務、現場、人、数字の流れを理解したうえで、どう判断するかを一緒に考える専門家。
AIが進むほど、このような役割の重要性は増していくように感じました。
小さな会社が今から整えたいこと
小さな会社が、いきなり高度なAI活用に取り組む必要はありません。
まずは、次のような土台づくりが大切です。
毎月の数字を早く確認できるようにする。
売上、在庫、資金繰り、会計の数字を分断させない。
試算表を、現場や経営判断に使える形に整理する。
社長、後継者、経理担当者が同じ数字を見て話せるようにする。
AIに任せる作業と、人が判断する作業を分ける。
AI時代の経営は、単に便利なツールを入れることではありません。
自社の業務の流れを整え、数字を見える化し、経営者と現場が同じ方向を見られるようにすること。
その先に、AIの活用があります。
AIで経理は楽になります。
しかし、経営判断まで自動で良くなるわけではありません。
むしろ、数字が早く見える時代になるほど、「その数字をどう読むか」「誰が何を判断するか」「現場の行動にどうつなげるか」が、これまで以上に問われるようになります。
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