「販路を広げたい」の前に、必要だったこと
― 老舗食品メーカーの経営改善支援 ―
「もっと販路を広げたい」
ご相談当初、経営者が強く話されていたのは、その言葉でした。
商品には自信がある。
地域で長く親しまれてきた。
外に広げれば、まだ可能性はある。
そう考えるのは自然なことです。しかし、実際に数字と資金の流れを確認していくと、まず取り組むべきことは別にありました。
まず会社を持たせる必要があった
会社は長年続く老舗食品メーカーでした。一方で、資金繰りは非常に厳しい状態でした。支払いの遅れも出始め、金融機関や取引先への説明も必要な局面。この状態で販路だけを広げても、現場や資金が追いつかなければ、かえって会社を苦しめることになります。そこでまず行ったのは、
- 日繰り表の作成と運用
- 資金繰り確認
- 支払い予定整理
- 債権者対応
- 銀行説明資料作成
- 資金調達準備
でした。販路開拓の前に、まず会社を維持する。それが最初の優先課題でした。
後継者は優秀だった。だからこそ難しかった
後継者の方は、大手企業での勤務経験もある非常に優秀な方でした。
数字にも強い。
理解力も高い。
理論的思考力もある。
だからこそ、
- 損益
- 資金繰り
- 予実
- 管理体制
について説明すると、すぐ理解されました。しかし、再生局面で本当に難しいのは、
「理解すること」
ではなく、
「お金が回る感覚を身体で覚えること」
です。私は、この部分を特に意識して伴走しました。
日繰り表を作れば終わり、ではない
日繰り表を作り、月末資金が合えば終わり。そう考えてしまうことがあります。しかし、再生局面の資金繰りは、そんなに単純ではありません。特に、支払い遅延が始まっている会社では、
- 急な入金遅れ
- 想定外の支払い
- 債権者対応
- 現場トラブル
- 設備故障
- 取引条件変更
など、“予期せぬこと”が必ず起きます。しかも、その影響はすぐ資金繰りへ跳ね返ってきます。だからこそ、
- 今日の残高
- 今週の支払い
- 来月の資金不足
- 数か月後の資金調達
- 季節変動
- 在庫増減
まで見ながら、常に先手を打ち続ける必要があります。それは単なる数字管理ではありません。
社員の生活がある。
家族の生活がある。
取引先の生活もある。
だからこそ、
「今月を通す」
だけではなく、
「その先も会社を回し続ける」
という視点が必要になります。
理論ではなく、「感覚」を身につける
後継者の方は、理論的にはすぐ理解されました。しかし、月末になると必ず想定外が起きる。そのたびに、
「なぜこうなったのか」
「次は何を先に確認するべきか」
を一緒に整理していきました。
日繰りを見る。
在庫を見る。
配送を見る。
日報を見る。
損益予実を見る。
そして、「この数字の裏で、現場で何が起きているのか」を考える。そうした積み重ねを通じて、少しずつ経営者としての視点が整っていきました。
自らの経験を踏まえた支援だった
私自身、過去に再生局面で資金繰りに追われた経験があります。だからこそ、
- 月末前の空気
- 入金確認の重み
- 支払い判断の苦しさ
- 資金残高を見る怖さ
はよく分かります。再生局面では、「理論上大丈夫」だけでは乗り切れません。予期せぬことまで想定し、先を読み、打ち手を準備し続ける必要があります。今回の支援でも、そうした経験を踏まえながら、後継者に対して、
- 何を見るのか
- どこに危機感を持つのか
- 何を先回りするのか
を一つずつ伴走しながら確認していきました。
経営改善は、判断できる人を育てることでもある
支援者が一時的に資料を作るだけでは、会社は変わりません。大切なのは、後継者自身が会社の状態を見て、判断できるようになることです。
- 資金繰りを見る力
- 現場を見る力
- 数字を読む力
- 優先順位を決める力
- 説明する力
- 先を読む力
それらは、一度話を聞いただけで身につくものではありません。だからこそ平岡商店では、数字だけではなく、現場や日々の経営判断まで含めて、一緒に整理しながら伴走することを大切にしています。
資金繰り、支払い、在庫、現場の動きなど、会社の課題は一つに見えても、実際には複数の要因が重なっていることがあります。まずは今の状況を整理するところからご相談ください。


