今回は、「事業性評価」「伴走型支援」という言葉についてお話ししていこうと思っています。
このサイトをご覧になられている方はご存知のことと思いますが、平岡商店ではコラムやそれ以外のページ、TOPページに到るまで「伴走型」とか「伴走型支援」といった言葉を多く使っています。
この「伴走型支援」の本来の意味や昨今小規模事業者や中小企業の間で耳にすることも多くなってきた理由についてご説明したいと思います。
目次
伴走型支援のそもそもの意味
伴走型支援という言葉をネット辞書で調べてみると・・
ばんそうがた‐しえん〔‐シヱン〕【伴走型支援】
社会復帰や生活再建を目指す人に対して、支援者が一対一で支援を行うこと。
“コトバンクより引用”
という解説がなされています。
つまり、ホームレスの人や経済的に困窮に陥っている人等に対する支援という意味合いを強く持っていることが伺えます。
これは、「伴走型支援士」と呼ばれるNPO法人・ホームレス支援全国ネットワーク協会が認定する民間資格の存在が強く影響しているためだと思われます。
この資格ができた背景は、路上生活者を支援するためには個々の支援者の経験と情熱によるところが多く、体系的な方法論が整っていない状況が続いていたこともあって、専門的な知識を持っている支援者を育成することを目的とし、2012年より講習会の開催と資格認定が行われるようになったというものです。
当初の名称は「ホームレス支援士」というものでしたが、今日の困窮者の困窮の原因が経済的なものだけではなく、生活苦、人間関係、学業、精神面での課題など、複合的に絡み合っている状況にあるので、現在の名称に変わっているというわけです。
なので、辞書の解説によるところの、「社会復帰」や「生活再建」という部分よりも、「支援者が一対一で支援を行う」という部分が伴走型支援の本質を捉えていると考えた方が良さそうです。
伴走型支援と商工会
数年前から、中小企業の経営者や小規模事業者の間で「伴走型支援」というワードが急速に広まりました。
これは、2014年に中小企業庁が「小規模支援法」を改正・施行した影響によるものです。
これらの法律の主旨は地域の経済や雇用を支える上で重要な存在である中小企業や小規模事業者が、情報化社会の中で人口減少・高齢化・海外との競争の激化・地域経済の低迷といった問題に直面するなか、経済の好循環を全国各地にまで届けるためにその活力を最大限に発揮させることを目的としています。
「小規模支援法」に置いて重要な役割を担っているのが商工会および商工会議所(以下商工会に統一)です。
元々地域に密着しながら都道府県や市区町村との連携を取りつつ、地域の中小企業や小規模事業者からのあらゆる相談に対応する役割を持っている商工会が、その役割を広げ、もっと中小企業や小規模事業者に寄り添う「伴走型」の支援を開始することとなったのが今回の改正です。
改正後の商工会の役割
元々商工会の中小企業や小規模事業者に対する支援とは、マル経による金融支援や記帳指導等に止まっていたのですが、2014年の改正によってそうした組織が地域で経営を持続的に行うためのビジネスモデルの再構築といった企業にとって重要なファクターをサポートできるような体制を全国的に整備することとしています。
マル経とは?
マル経融資(経営改善貸付)とは、あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、商工会議所および商工会であっせんしてくれる無担保・無保証人で利用できるお得な融資制度です。
さらに、日本政策金融公庫の普通貸付の利率よりも、0.3%低金利です。マル経融資(経営改善貸付)は、商工会議所や商工会などの経営指導を受けている小規模事業者の方が利用できます。
“日本政策金融公庫融資ナビ”より引用
その方法の一つとして、地方を支える小規模事業者が持つ需要開拓や事業承継などの課題に対する伴走型の事業計画策定・実施支援のための体制の整備というのがあります。
伴走型というのはまさにマラソンでランナーのそばをついて走る伴走者が如く、小規模事業者と一緒に課題解決のため支援を継続して行うことです。
これらのことを加味すると、「伴走型支援」というのは「支援者が一対一で継続的に課題解決のための支援を行う」という意味がしっくりきます。
生産地問屋㈱平岡商店の伴走型支援
コラム:中小企業の挑戦と成長を妨げる2つの問題でも書いたのですが、中小企業や小規模事業者は資金調達手段や様々な課題に関する相談相手に課題を抱えており、前述の制度改正の中で商工会の機能は向上傾向にあるもののまだ現場レベルでその効果が実感できていない現状があるかもしれません。
こうした現状の課題を解決すべく、自らも事業承継や経営再建を成し遂げた経験のある代表者が、「自らが問屋(機能)として、いつでも気軽に相談できる実戦経験豊富なコーチ」という中小企業、小規模事業者の求める経営支援者の理想像を追求したいとして動き始めたのが生産地問屋㈱平岡商店です。
金融機関・地域社会・コンサルタント・中小企業診断士・商工会など、地域に根ざす中小企業、小規模事業者が相談できる機関は様々ですが、平岡商店はそうした機能を繋ぎ合わせる役目を目指しており、現状の商工会や商工会議所と連携しながら経営者のそばに寄り添った支援を目的としております。
なぜ、経営現場で伴走型支援が必要なのか?
制度設計上の伴走型支援の背景についてはこれまで述べてきたとおりですが、実際の経営現場において伴走型支援が必要とされる理由について考えてみたいと思います。小規模事業者、中小企業の経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)は中堅、大企業に比べて著しく小さいことはご承知おきだと思いますが、実際の経営現場では、ご経営者、幹部、中間管理職が日常業務に追われているため経営上の問題、悩みはあれども、その原因把握や、解決策を特定するための時間を割くことが出来ないことが最大の原因だと思います。現場での実務については精通していますが、自分の会社の実態を俯瞰してみる機会は少ないです。さらにそうした実態をつかむという手法や支援者が少ない事も原因かと思います。
伴走型支援の第一歩は、対象となる企業のご経営状態をただしく把握することに他ならないと考えます。では、どうやったら会社の経営実態を正しく掴むことが出来るでしょうか?一般的には財務諸表をいかに精緻に理解するか?という点に尽きると思います。小規模事業者、中小企業の多くは、大企業と異なり、リアルタイム、月次で経営状態を把握出来ている割合は少ないのでしょうか?日常業務に追われて記録をつける時間もなければ、顧問税理士からのアドバイスを受ける機会も少ないかと思います。残念ながらご経営者が財務諸表を読むのが苦手、というケースも見受けられます。
バランスシートへの理解度を高める事が伴走型支援の第一歩
従いまして、伴走型支援において財務諸表が読み解けること、とくにバランスシートが読み解けることが支援者の必須スキルだと思います。小さな会社の資本は限りなく小さく、日々の資金繰りに追われ、自分の生活を犠牲にしながらやりくりされているケースが多く、また新型肺炎に見られるような社会、経済状況の変化が経営に与えるインパクトは大きく、すぐに資金繰りが苦しくなったり、赤字が続く可能性が高いのです。そうした経営状況を正しく掴むためには損益計算書だけでは不十分です。小さな会社を支援する仕事に携わる以上、最低限のマナーとしてのバランスシートの理解度を高めておくことが大切かと思います。
定量データ、定性データによる事業性評価が伴走型支援の成否のカギ
自らの事業再生の経験の中で培ってきた資金調達のための業績報告、プレゼンテーション術や、仕入代金の支払いが滞り手形ジャンプの要請をうけるなど資金繰りの苦しい取引先を訪問し、コーチングスタイルでの取引先との対話から経営状態、資金繰りといった実態を把握し支援の当否を決断してきた事業性評価のための対話術、コーチング術を大学院で体系化し、ビジネスS&Cコーチ(小さな会社の伴走型支援者)として再起業した後は、金融機関や商工会などの支援機関の要請を受け、累積赤字、債務超過に陥った債務者区分(要注意先、破綻懸念先)の厳しい小規模事業者を短期間で建て直してきました。すべてが成功したとは言えませんが、信じて託していただいた支援先については一定の成果をあげたと思います。
事業性評価とは担保や保証に依存せず、企業の経営実態をしっかりと把握することで実態に即した金融支援を行うことを目指して提唱されていますが、実際に小規模事業者、個人事業主の経営実態、決算書が結果だとすると、原因部分を理解するのは難しいものです。経営者、経営支援者として小さな会社の建て直しを成功させてきたメソッドを研修コンテンツとして開発し若い金融機関の職員様向けに展開することになりました。
決算書では現れない企業の実態を把握する、といっても決して決算書を除外して評価するのではなく、決算書を中心とした定量データと定性データとの往来を重視しつつ、一方的な評価ではなく、対話を促進するための対話術について、自らの経験や支援事例をふまえてワークショップスタイルで展開していきます。
従来のコーチングフレームワーク、行動変容モデルといったコーチングメソッドもバージョンアップし、事業性を評価するだけではなく、取引先の日々の活動、工夫といった経過、動態を適切にモニタリングするための手法も盛り込んでいます。
大企業と中小、零細企業の「資金調達」の違い
中小企業、小規模事業者と大企業の資本力の違いは言うまでもありませんが、それ以上に大きな違いは資本調達方法の差です。非上場会社、オーナー経営が多い中小企業が、出資・投資による資金調達を行うことは難しいと思います。そうなると、融資(かりる)、給付(もらう)、未払(のばす)が主要な資金調達方法になります。今回の持続化給付金や雇用調整助成金のように、返済の必要のない給付金で資金調達できるケースは稀で、ものづくり補助金、IT導入補助金のような補助金の採用確率はそう高くありません。
何より補助金が入金されるまでの間は立替資金が必要になることが多く、もらうために、かりなければならない、という矛盾も生じます。無借金経営を中心によほど体力のある企業であれば問題はないかもしれませんが、小規模事業者、個人事業主といった零細企業がそうした資金に余裕がある、または、簡単に金融機関から借入が出来るとは考えにくいです。
今回の新型コロナウイルスの影響を少しでも軽減すべく、中小企業、個人事業主に対する様々な支援策が打ち出されています。まずはこうした支援策を出来る限り取り入れ、会社をつぶさないための生き残り策を実行しなければなりませんが、中には借りることに対する不安や、いくら借りたらよいか分からない、借りた後の返済をどのようにすればよいか?といった心配をされる方も多いと思います。
個人事業主、小規模事業者とサラリーマンの「借金の質」の違い
たしかに、サラリーマンの住宅ローンのように、収入・支出がある程度一定しており、収支増減がゆるやかな場合はそう心配することはありません。しかしながら、収支が不安定で増減もあり、一か月の間でも増減幅の大きい零細企業の場合は不安も大きいと思います。経費や返済は待ってはくれません、一方で頑張って働いても入るとは限らないのが商売ですので、前述の間違いなく保証されているお給料とは収入の安定感が異なります。
今回の新型コロナウイルスで大幅に売上が下がった、赤字が拡大した、資金繰りが厳しい、といった中小企業、小規模事業者、個人事業主が資金調達をしないまま難局を乗り切るのは厳しいかもしれません。前述した有利な資金調達策である、持続化給付金、雇用調整助成金、休業補償といった「もらう」お金は別として、手元資金を安定化し、当面の経営、とくに従業員のお給料や家賃、経営者自らの生活費を確保するためには金融機関からの借入を活用すべきかと思います。
小さな会社の命を守る必須アイテムはコレ!
大切なのは借りた後のやりくりです。日々変動する資金繰りをきちんと管理し、入金・出金・残高の推移を確実に把握し、今月、来月、半年、一年先の見通しや、五年後、十年後といった中・長期的な展望を明確にしておくことが大切かと思います。WITHコロナ、アフターコロナ時代の伴走型支援の必須アイテムは、的確な経営目標の設定と共有であり、それを手軽で、安価で、正確に実現できるのは「クラウド会計」です。
すでに様々なサービスが導入されていますので、詳細は割愛しますが、伴走型支援においては常に支援先の経営状態を把握し、目標を共有し、優先順位を設定し、役割分担を行い、出来るだけ費用と時間をかけぬよう、諸施策の実施、行動に移すアプローチが求められると思います。現状把握、目標設定、行動の関係性については、別のコラムでも説明していますのでご参照ください。