
売上はある。お客様も来ている。毎日、店は忙しく動いている。それなのに、会社にいくらお金があるのか分からない。請求書やレシートはたまり、通帳残高と帳簿も合っていない。決算が近づくと、慌てて一年分の資料を集める。今回ご紹介するのは、そんな状態から経理を立て直した小売店の事例です。
特別な知識を持つ経理担当者がいたわけでも、高価なシステムを導入したわけでもありません。会計freeeを使いながら、お金の入口と出口を整理し、会社の中で確認する流れを少しずつつくりました。
経理の立て直しとは、帳簿をきれいにすることだけではありません。会社のお金の流れを、経営者自身が取り戻すことです。
目次
店は動いているのに、経営の数字が見えない
この会社では、日々の営業そのものは問題なく続いていました。商品は売れ、仕入れも行われ、従業員への給与も支払われています。現場では、今日どの商品が動いたか、客数は多かったか、仕入れが多すぎなかったかという感覚もありました。一方で、経理処理は後回しになっていました。レシートや領収書は箱や封筒に入り、請求書が届いても、いつ支払うのかを一覧にしていません。売上が立っても、いつ、いくら入金されたのかを十分に確認できていませんでした。
経営者が見ていたのは、主に通帳の残高です。残高があれば、まだ使える。減ってくると、不安になる。けれども、その残高の中には、これから支払う仕入代金や給与、税金に充てるお金も含まれています。通帳にお金があることと、自由に使えるお金があることは同じではありません。売上や利益が分かるのは、決算が近づいてからでした。それでは、経営判断には間に合いません。
原因は「経理が苦手」だけではなかった
当初は、経理の知識が不足していることが混乱の原因だと思われていました。しかし、実際に仕事の流れを確認すると、問題は一人の知識や能力だけではありませんでした。現場で受け取ったレシートが、経理へ届かない。クレジットカードを使った理由が伝わっていない。仕入れた商品と請求書が結びついていない。売上と入金の確認方法も、担当者ごとに違っていました。
つまり、経理担当者が入力する前の段階で、必要な情報が途切れていたのです。経理は、経理担当者だけで完成させる仕事ではありません。現場が取引の事実を伝える。経理が記録する。経営者が数字を確認する。この三つがつながって、初めて数字を経営に使えるようになります。
最初から帳簿を完璧にしようとしなかった
経理が混乱していると、過去の取引も、未入力も、勘定科目も、売掛金も、在庫も、すべて一度に直したくなります。しかし、それでは作業量が多すぎて、日々の処理がさらに遅れてしまいます。そこで、最初に整理したのは、会計処理の細部ではなく、お金の大きな流れでした。
会社に入ってくるお金には、店頭の現金売上、クレジットカード売上、振込による売上があります。出ていくお金には、商品の仕入れ、家賃、給与、借入返済、税金、日々の経費があります。
まずは、
- どこからお金が入ってくるのか
- 何にお金を使っているのか
- これから何を支払うのか
- 売上代金はいつ入金されるのか
を整理しました。勘定科目を細かく整える前に、実際のお金の動きをつかむことから始めたのです。
会計freeeを「自動で経理をしてくれるもの」にしなかった
銀行口座やクレジットカードを連携すれば、会計freeeには多くの取引情報が入ってきます。ただし、情報が入ることと、正しい帳簿ができることは同じではありません。画面に表示された支出が、何を買ったものなのか。誰が使ったものなのか。どの売上に対応する入金なのか。システムだけでは判断できないことがあります。
そこでfreeeを、何でも自動で処理してくれるシステムとしてではなく、会社のお金の動きを一か所に集める場所として使いました。銀行口座の動き、クレジットカードの利用、売上の入金、仕入れや経費の支払いを集め、分からない取引は現場へ確認します。
自動化できる部分は自動化する。
一方で、取引の意味は人が確かめる。
この役割分担を明確にしたことで、会計freeeの情報を経営に使える数字へ近づけられるようになりました。
入力方法よりも、資料が集まる仕組みを先に変えた
経理が遅れる会社では、会計ソフトの操作方法よりも、その前にある資料の集め方に問題があることが少なくありません。この会社でも、レシートや請求書が経理へ届くまでに時間がかかっていました。月末になると、経理担当者が社内を回り、誰が使ったのか、何を買ったのかを一件ずつ確認していました。そこで、資料を集める場所と期限を決めました。
レシートは決められた場所へ入れる。請求書が届いたら、支払日を確認する。クレジットカードを使った人は、利用内容を伝える。
難しい仕組みではありません。
けれども、月末にまとめて探すのではなく、その都度情報が集まるようになったことで、経理担当者の負担は大きく変わりました。
どの会計ソフトを使うかより先に、取引の情報が経理へ届く流れをつくる。経理改善では、この順番が重要です。
確認する数字を一つずつ増やした
日々の資料が集まり始めても、すぐにすべての数字を確認できるようになったわけではありません。最初に合わせたのは、現預金でした。通帳の残高と会計freeeの残高が合っているかを確認します。次に、売上と入金を見ました。売上が立っているだけでなく、実際に代金が入っているかを確認します。その後、仕入れと支払い、売掛金、買掛金、借入金へと確認する範囲を広げていきました。経営者が毎月見る数字も、最初から増やしすぎませんでした。
確認したのは、主に次の数字です。
- 現預金
- 売上と粗利
- 売掛金と買掛金
- 借入金
- 今後の支払いと資金見通し
まず変化を見つけ、気になるときだけ元帳や明細へ戻ります。すべてを理解してから判断するのではなく、毎月見る数字を絞り、変化があったところを深く確認する流れをつくりました。
経理が早くなると、経営判断も早くなる
経理を整えた結果、最初に変わったのは、数字が分かる時期でした。決算前になって一年分をまとめて確認する状態から、毎月の売上、粗利、経費、現金の動きを確認できる状態へ変わりました。数字が早く分かれば、対応も早くなります。入金が遅れていれば、取引先へ確認できます。仕入れが増えすぎていれば、次の発注量を見直せます。経費が増えていれば、何に使ったのかを翌月までに確かめられます。
経理を早くする目的は、帳簿を早く完成させることだけではありません。
経営者が、修正できるうちに数字を見ることです。
数か月後に問題を知るのと、翌月に気づくのとでは、選べる対応が違います。
経理を一人の仕事にしない
経理が混乱している会社では、経理担当者がすべてを背負っていることがあります。レシートを探し、取引内容を推測し、現場へ確認し、社長へ数字を説明し、税理士へ資料を渡す。これでは、担当者が疲弊し、処理も遅れます。そこで、役割を分けました。
現場は、何を買い、何を売ったかという事実を伝える。経理は、その情報を集めて記録する。経営者は、毎月の数字を確認して判断する。税理士は、会計や税務上の専門的な判断を行う。
誰か一人に経理を任せきるのではなく、会社全体で数字をつくる流れへ変えました。自計化というと、経理担当者がすべて一人でできる状態を思い浮かべるかもしれません。しかし、本当に必要なのは、一人で抱え込むことではありません。必要な情報が必要な人へ届き、役割ごとに確認できる状態です。
どんぶり勘定の感覚を、数字で確かめる
この小売店の経営者は、数字をまったく見ていなかったわけではありません。
今日はよく売れた。この商品は動いている。今月は客数が少ない。仕入れが多すぎた。
現場に立っているからこそ分かる感覚を持っていました。その感覚は、経営にとって大切なものです。問題は、感覚が間違っていることではなく、それを確かめる数字がなかったことでした。そこで、現場の感覚を否定するのではなく、会計freeeの数字と結びつけました。よく売れたと感じた日の売上はいくらだったのか。商品が動いたとき、在庫はどのように変化したのか。忙しかった月に、粗利はどれくらい残ったのか。感覚と数字を照らし合わせることで、経営者の判断に根拠が加わりました。
どんぶり勘定から抜け出すとは、現場の感覚を捨てることではありません。感覚を数字で補強することです。
システムではなく、確認する習慣が会社を変える
この事例から分かるのは、会計freeeを導入するだけでは経理は整わないということです。
資料を集め、取引内容を確認し、会計へ記録する。毎月の数字を見て、現場へ問いかけ、次の行動を決める。
この流れが会社の中で回るようになって、初めてシステムが役立ちます。システムは、経理を整えるための道具です。経営を変えるのは、その道具を使って数字を確認する習慣です。日々の記録と月次の確認がつながれば、経理は過去をまとめるだけの仕事ではなくなります。
会社の今を知り、これからを考えるための土台へ変わります。
現在のBSCにつながったこと
このような支援経験から、経理の立て直しには三つの段階があると考えるようになりました。
最初は、日々のお金の流れを整理することです。
次に、会計ソフトを使い、月次の数字を早く確認できるようにします。
そして、数字の変化を経営者や現場の言葉へ置き換え、次の行動へつなげます。
現在のBSCでも、この流れを大切にしています。
試算表や資金繰り表を作るだけでは終わりません。数字の変化に気づき、現場で何が起きたかを確かめ、経営者と次の一手を考えます。
経理を整える目的は、過去をきれいに記録することだけではありません。
未来を考えられる状態をつくることです。
まとめ
ぐちゃぐちゃになった経理を立て直すとき、最初から完璧な帳簿を目指す必要はありません。
まず、お金がどこから入り、何に出ていくのかを整理します。次に、資料が経理へ届く流れをつくり、会計freeeへ取引を集めます。
そのうえで、現預金、売上、粗利、売掛金、買掛金など、重要な数字から確認を始めます。
経理の立て直しは、会計ソフトを導入することだけではありません。
会社の中に、お金の流れを確認する習慣をつくることです。
帳簿が整えば、数字が早く分かります。
数字が早く分かれば、経営判断も早くなります。
経理を整えることは、会社のお金の流れを取り戻すことです。


